立石従寛 丹原健翔 若佐慎一
現代の科学技術によるグローバル化により、我々は場所や時間を超えた流通が可能になりました。一方で、指一本で人・モノとつながりコミュニケーションがスマート化される中、流通そのものの方法論を主軸とした議論だけ進むようになりました。流通における安心・安全と引き換えに、我々は包装の中の対象の価値を視えなくなっているのではないでしょうか。
傍観者、観測者として視えるものと当事者が扱う物品の間に、身を守るための緩衝材があるのだとしたら、それは何を守り、何を包み隠してしまうのか。本展ではその境界自体に向き合い読み替えることで、新たに視える現代の曖昧な「在り方」を提示しようと試みます。
作家一同
展示作品
(玄関から奥の部屋に向かって)
Re: Olive Branch
2019
立石従寛
パーマネントインク、インクジェットプリント
インスタグラムのハッシュタグに紐付いた膨大量のイメージを人工知能的に解析し、一枚に再構築した作品シリーズ「その-それら」の一作品。希望や平和の象徴とされるオリーブの枝を咥えた白いハトのぼやけた背景には、投稿者ひとりひとりの数え切れないストーリーが重なっている。結婚式、休日の公園、マジック ーそれら希望の中に、相反して少数ではあるが、軍事用ヘルメット、葬式、ドクロなど負の感情が隠されている。この感情の差分こそが希望なのではないか。人工知能が読み取った人間の願わずにいられない前向きな悲しみを作家の手で涙として添えた。
玄関壁
あるようでないようで、ないようであるようで
2019
若佐慎一
和紙、岩絵具、アクリルガッシュ
これはグレーと白とマゼンダ色の絵の具の下に、過去描いた作品が眠っている。 過去の作品から新たな別の世界に進まねばならないという思いにより制作。 表面と内面の絵柄の違い、更にはそれを額縁で覆うという過剰さと、包装された内と外との違いに繋がりを持たせた作品。
廊下壁
般若
2018
若佐慎一
和紙、銀箔、墨
般若は諸説あるが、女性の怨念の形を現した姿だと言われている。 あの世から現れる幽霊、また嫉妬に狂って、その恨みをはらそうとする当事者である般若の視点に立つか、その般若を生み出した側の視点に立つかでそのモノの視え方が変わってくるかもしれない。
ダイニング壁
お母さん
2018
若佐慎一
和紙、岩絵具
自身にとっての女性の普遍性を表現した作品。 小学4年時に父親を亡くしてから、女手一つで何一つ不自由無く愛を持って育ててくれた母の姿。それは子供として幸せな事であったと同時に、全てを自分達子供に向けてくれている姿勢に母親の女として生きる姿を見る事が無かったアンビバレントな想いを表現した。
換気扇下
No Contest
2019
丹原健翔
包装用シート、エアパック、セロハンテープ、布張り椅子
スーツケースなどを保護するのに使われる包装用シートと緩衝材に使われるエアパックで作られた二体の人形は、手足が欠けていて、表情や細かい輪郭を持たない。二体の間の関係性、二体と空間の関係性を考える中で、中身を持たない抜け殻のような人形に情を見出せるのかもしれない。その時、二体の人形は鑑賞者にとって何を入れる器として機能しているのか。
窓際
女
2018
若佐慎一
和紙、銀箔、墨
般若になる前の姿。 現世にて酷い仕打ちを受けて自我が崩壊する寸前の姿。
洗濯機庫中
木の上に立って見る
2019
立石淳士、立石従寛
インクジェット用紙、パーマネントインク、ダンボール
立石と立石の長男(三歳半)によるドローイング作品。親による愛は子への全方向的な期待として現れるが、ベクトルが付与された時、子供の意思を超えたエゴへと変貌する。本作品は親子の純粋な戯れとしてはじまり、立石の過度な制作指揮が起こした親子喧嘩を経て、上記考えと及んだ過程を保存した。子のあるがままの成長を見守るため、戒め、誓いとしてドリッピング技法を反転させ展示した。
白壁
Another Sea
2019
立石従寛
インクジェットプリント、短焦点プロジェクタ
人間が生まれる前から居なくなった後も不変であろう太古の海を表現した杉本博司の「海景」への呼応作品。人工知能の視る海には常に人の像が浮かび上がる。一つつなぎである海は仮想世界で分断され、投稿者の生活、思想、美学があらゆる角度が切り出され、海という概念そのものを包装し、それぞれのハッシュタグが固有の海を持つ。人が居なくなった時、われわれ人間は亡霊のように仮想世界の海を眺め続けるだろう。
奥部屋壁
Convergent front
2019
立石従寛、丹原健翔、若佐慎一
モニター、LED照明、エアパック 3チャンネル、2オーディオトラック 4:50、2:02、5:34
海のように広がるエアパックの山の中に複数の映像がモニターから映し出されている。それぞれが各々の作家の人生の転機になった瞬間などを映し出している映像だが、緩衝材が覆い被さり詳細は鑑賞者に明かされない。まるで潮の流れのように、当事者にとっての大きな動きが水面下で投影されつつも、外からは情報は飲み込まれ緩やかな色の移り変わりの表情を持つことになる。
奥部屋
過剰な包装
Excessive Packaging
2019.09.20 (fri) 0 09.28 (sat)
12月森スタシオン
お問合せ
立石 hi@jukan.co
丹原 ktambara@amatorium.com
若佐 sp728re9@mirror.ocn.ne.jp